臆 病 な 医 者 (南木佳士著) 朝日新聞社 

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 自宅に保存してあるはずの全部読了した南木佳士さんの全著作を探すのですが、大事な一冊がまだ見つかりませんので、少々お待ち下さい!

 ようやく見つかりました!南木佳士氏の本は、手に入らなかった『八十八歳の秋 若月俊一の語る老いと青春』以外はすべて読了しており、最近毎月書かれている月刊誌の『文学界』も追っかけています。今回の書評は、どの本にしようかと迷い過ぎて、結局本サイトに少しでもふさわしいものと考えて、本書『臆病な医者』としました。1999年12月発行で、定価は1,400円+税となっています。

 南木佳士さんは医師でありながら、芥川賞受賞作家です。私より一歳年下です。彼はもともとから文学青年で、国文科志望だったのに、国文では食えないといったヨコシマナ考えから、医学部に入学したという、よくある「エリートの勘違い」の典型です。お気の毒なことに、そのツケがしばらくしてしっぺ返しのように、帰ってきます。
 呼吸器内科医となった彼は、特に末期の肺がん患者さんたちばかりを看取る仕事に忙殺され、終には今で言う「パニック症候群」に陥ります。若い部下に地位を譲ってまで、楽な診療科に退散です。といっても自宅から外出もままならない毎日が当分続きます。後にあとを譲ったその若い呼吸器内科の医師が当の肺がんに犯されて死亡します。これは小説ではなく実話です。

 そんな彼がようやく「パニック症候群」(といっても、ご本人は鬱病を強調したいらしいのですが、あれはどうみても、以前よく使われた「不安神経症」の典型なのです)からようやく抜け出たあとの随筆集が本書を含め、何冊かあります。
 帯には「他者の死を見つめる医師。二つの仕事に挟まれて明日を楽観できなくなってしまった中年男の臆病な眼に映る日常の細部の意外な輝きを綴るエッセイ、掌小説、書評集」とあります。

 この臆病なお医者さんから眼が離せません。はらはらいつも心配してあげています。なぜ漢方薬を使わないのだろうと、老婆心も出て来ます。お近くだったら直ぐにでも腕によりをかけた村田漢方堂薬局の漢方薬を進呈したい気持ちになります。西洋医学で救われないなら、村田の漢方薬ですよ!
 宣伝をかねた冗談はともかく、同年代の彼が心配でたまらないのです。自分の分身か弟のような気がします。何とも不思議な惚れ方なのです。お医者さんも御自分が病気になると、からっきし弱いものだと気の毒でしかたありません。

 ともあれ、医師という仕事の過酷さを垣間見せてくれる貴重な作家でもあります。南木氏には『医学生』という大衆文学的なベストセラー小説もありますが、芥川賞を受賞した『ダイアモンドダスト』のようなシンミリとさせる作品が多く、『阿弥陀堂だより』は映画化もされています。

 「人生とは何か」を考えるとき、彼の本はどれをとってもうってつけだと思われます。