「ウチダの生薬製剤二号方」の中医学的効能

[参考関連ブログ:ウチダの生薬製剤二号方と丹心方]

 ウチダの生薬製剤二号方が医薬品として許可され、市販されてしばらく経過した時点で、1996年2月号の月刊『和漢薬』誌513号に『丹参製剤 生薬製剤二号方』と題した拙論が巻頭を飾らせてもらっていますが、その長文の論説中、純粋な中医学的分析・解明の部分のみをピックアップしてまとめあげたのが本論です。

 漢方薬の学習は本来、学問的にも臨床実践の上でも、西洋医学言語で理解する以前に極めて重要なことは、いかに漢方医学的に、あるいは中医学的に、西洋医学言語ではない純粋な東洋医学言語による理解と考察が必要なことは言うまでもない筈なのですが、現代の風潮は何でも安易に「わかりやすい」という一見尤もな理由から、却って基本から遠ざかり、中国伝統医学の本質をいつのまにか忘却した売らんかな主義が横行しているのを見るにつけ、実にウンザリさせられていますので、ここでは中医学言語以外は殆ど使用しない解説文を掲載することに決めた!という訳です。

 つまり、本方の行気活血袪瘀作用の適応が瘀血阻滞に対することは当然にしても、そもそも瘀血そのものが二次的な病理産物であることが多いということを知っていれば、単独投与では対症療法に終わることもあり、あるいは本論の後半で述べるように、単独投与による様々な不都合が生じることもあり得るわけです。「血液サラサラ!」「血の流れを良くする!」などのキャッチコピーもよいけれど、そもそも、その血行障害を生じさせた原因は何か。つまりは「治病求本」の原則を忘れてはならないと思うのです。

 内容は一部改正・改変・増補しています。
 なお、「瘀血」の原因(瘀血阻滞の形成原因)を知るには>>>>>●


 本方の組成は、1日分3包(6g)中、
    丹参  4,500g
    紅花  2,250g
    芍薬  2,250g
    川芎  2,250g
    木香  2,250g
    香附子 1,250g
 となっていますが、三十年前に中国医学科学院で開発された「冠心二号方」と配合内容がかなり類似しています。
 冠心二号方の組成は、〔注記:本方は中国における薬用量で、日本人には多すぎます!決してマネされないように!
    丹参  30g
    紅花  15g
    赤芍  15g
    川芎  15g
    降香  15g
 となっており、冠心二号方の赤芍が日本薬局方の芍薬となり、降香のかわりに木香と香附子の二味に入れ替えたものが「生薬製剤二号方」です。それゆえ、効能面においても殆ど同様に、活血化瘀方剤と考えてよいのですが、強いて言えば本方のほうが、冠心二号方よりも行気作用が若干強くなっていますので、本方は「行気活血」の方剤と表現すべきであると思います。
 【丹参】の性味は苦微甘、帰経は心・肝、効能は活血袪瘀・涼血消腫・養血安神です。
 【紅花】の性味は辛温、帰経は心・肝、効能は活血・袪瘀・通経です。
 【芍薬】の日本産は、私見では中医学における赤芍と白芍の中間的な生薬と考えており、したがって性味は、苦酸微寒、帰経は肝・脾、効能は清熱涼血・補血袪瘀・斂陰平肝・柔肝止痛であると愚考しています。
 【川芎】の性味は辛温、帰経は肝・胆・心包、効能は活血行気・袪瘀止痛です。
 【木香】の性味は苦辛温、帰経は脾・胃・大腸・胆、効能は行気・調中・止痛です。
 【香附子】の性味は辛微苦微甘平、帰経は肝・三焦、効能は疏肝理気・調経止痛です。

 以上の配合薬物を総合すると活血袪瘀・行気止痛の方剤となりますが、より正確には行気・活血・袪瘀の方剤と考えたほうがよさそうです。活血袪瘀方面の丹参・紅花・芍薬・川芎という四味の配合分量と、行気方面の川芎・木香・香附子の三味の配合分量を比較すると、活血袪瘀にウエイトが置かれた方剤であることは明らかなのですが、「気は血の帥」であり「気が行れば血は行(めぐ)」り「気はよく血を行(めぐ)」らせるので、「活血するには先ず順気を優先す」べきですから、血行改善の水先案内としての行気薬三味の意義は重要なわけです。
 それゆえ、生薬製剤二号方は「活血化瘀」の方剤というよりも、むしろ完成度の高い「行気・活血・袪瘀」の方剤であるとしたほうが、より的確な表現であると考えるわけです。但し、中医学的な表現としては「活血袪瘀・行気止痛」のほうが比較的具体性を感じさせる表現ですので、「行気・活血・袪瘀により止痛効果もあり」と複合させて考えると便利かもしれません。そえゆえ「行気活血・袪瘀止痛」あたりが一番よいかも知れませんね。まあ、このようにあれこれ考えていると、次第に言葉遊びの世界に入り込んでいきますので、このあたりでやめておきましょう。
 以上のような、2004年12月28日夜のあれこれの考察により、「行気・活血・袪瘀作用があって、これによって止痛作用もあり」ということから、行気活血・袪瘀止痛を結論にしたいと思います。


 ●血府逐瘀湯との比較

 最近日本国内にもエキスと原末を混合して製剤化された「血府逐瘀丸」が輸入許可されています。

 【成分】当帰・川芎・地黄・桃仁・紅花・枳実・芍薬・柴胡・甘草・桔梗・牛膝

 この血府逐瘀湯はかなり完成度の高い方剤で、応用範囲も生薬製剤二号方と多くの部分で共通しています。むしろ方剤単位で考えれば、薬味が多種類配合されている分、完成度の点では血府逐瘀湯の方が高く、自己完結型の方剤と言えます。適応する場合は、単方でも優れた効果と根治能力を発揮できます。桃紅四物湯合四逆散の加減方であり、地黄や当帰の配合により、瘀血によって生じる血虚(瘀血が除去されないと新血が生じにくいため遷延すると血虚が生じる)を補い、あるいは袪瘀しても陰血を損傷することなく便利な方剤ですが、場合によってはこの薬味の多さがわざわいして、気軽に応用できない面があります。かなり的確な弁証が必要な方剤です。その点では生薬製剤二号方は薬味が少なく、それほど自己完結的でない分、他剤との併用がしやすく、また比較的気軽に使用できます。

 蛇足ながら、血府逐瘀湯を一般製剤で代用するには、大柴胡湯や四逆散に疏経活血湯や折衝飲の合方で可能です。


●使用上の注意

 生薬製剤二号方における中医学的な使用上の注意を述べます。
 肝腎陰虚の人や火盛の体質などでは慎重に用いるべきで、弁証論治の基本原則を怠り、売らんかな主義で販売することばかりに熱中して安易に投与すると、本方の温燥の性質により、ますます傷陰して肝陽偏亢を助長したり、あるいは肝陽化火を誘発し、実熱証では熱毒を助長してしまうので、適切な弁証分析に基づいて滋陰剤や清熱解毒剤などを併用して、必ず配合のバランスを取る必要ががあります。
 また、気滞血瘀証に間違いなく、しかも明らかな陰虚や実熱が認められないようでも、本方を服用すると熱感などを生じて不快な場合は、五臓六腑のどこかに陰陽バランスが極めてデリケートな部分がある証拠です。温燥の本方では傷陰の影響が出たり、あるいは化火してしまうタイプですので、適切な滋陰剤や清熱剤を加えるべきです。あるいは血府逐瘀湯に変方してみるのも、一つの方法です。
 明らかな気血不足の人には、補気剤や補血剤、あるいは気血双補剤を併用します。このような正虚に対する配慮が欠けた使い方をすると、たとえ即効があったにせよ、次第に正気を支えられなくなり、いずれは治療効果も失って、生薬製剤二号方の本来の役割を十分に果たせなくなります。
 脾胃に問題があり、単方の投与で胃腸にさわるような体質の人でも適切な方剤と併用すれば、胃腸を丈夫にしながら本方の効能を十分に発揮させることも可能です。

 「瘀血」の原因(瘀血阻滞の形成原因)を知るには>>>>>●