文春新書です。定価は当時660円+税となっていますが、初版発行は平成10年10月です。
もとカント哲学者の著者の中島氏の現在を知る私は(と言っても本の上で知るのみですが)、こんなプッツンオヤジなんて、勝手にしろ!と言いたいくらいな、煮ても焼いても食えないおじさんです。その彼が、現在に至るまでの壮絶な人生を知れば、現在の彼を少しは許す気になってしまうのです。
もしも彼が明治以前に生まれていたら、きっと臨済宗の中興の祖ともいわれる白隠禅師のような、立派な禅宗坊主になっていたことと思われるのですが、悲しいかなこの現代のようなモラルハザードの時代に生まれたのが運の尽き、ウルサイだけのお邪魔虫オヤジになるしかしかたがなかったのでした。
小学校時代から学校のトイレで用を足せない可哀想なよしみっちゃん。おもらしばかりのよしみっちゃん。給食も食べれないよしみっちゃん。誰にも理解されない可哀想〜な、よしみっちゃん。
子供の頃から秀才の誉れ高いよしみっちゃんは、当然のように楽々と東京大学に入学してからの急転直下、もっと悲惨などん底人生。大学にほとんど通えなくなるなど、ひどい鬱病の状態です!よくぞ立ち直って、というよりもイササカ立ち直りの度が過ぎて、完全に居直ってしまった強情・頑固男の中島くん。
村田くんは、中島くんをけっしてからかって言っているのではありません。よくぞ自殺せずに済んだものだと、思わずホッとため息が出たほどです。中島くんの母上が下関出身だけに、とても身近に感じられるのです。一度でも、人生を真面目に考えすぎて地獄を見てしまった人なら、誰でも中島くんの本を読んで、ハラハラ・ドキドキしない人はいないでしょう。よしみちゃんほどは重症でなかったとしても、大いに同感し、同情もし、哀れみもし、我がことのように涙の一つも浮かぼうというものです。
それにしても、最初に中島くんのことを、「もと」カント哲学者だと言いましたが、きっと怒りはしないでしょう。これだけ機関銃のように一般向けの書籍を出版すれば、カント哲学をなどっている暇などないはずです。
村田くんは中島くんの一般向け書籍のほぼ全部を読んでいますが、最高だったのは本書と、別の意味で最大級の賛辞を送りたいのが「ウィーン愛憎」(中公新書)でした。この二冊以外は、まったくコメントしたくありませんので、これで失礼させていただきます。