日 本 文 壇 史 (全24巻) 伊藤 整 著 講談社

漢方医学関連書評集 > 漢方薬と日本文壇史?


 いま、書庫に本をとりに行っていますので、少々お待ち下さい! ただ、飛び石連休明け(平成16年11月24日)は薬局がいそがしくなりますので、少々執筆が遅れるかもしれません。23日にはチヌ釣りに行っていましたし、ややバテ気味でもあります。とにかく、ちょっと本を一抱え持ってきます。

 今、書庫から戻ってきましたが、うっかりしていました。全24巻のうち、伊藤整氏の著作は第18巻までで、氏が亡くなられた後を引き継がれて、親友の瀬沼茂樹氏が第19巻から最終巻の第24巻までを執筆されたのでした。本を見て思い出したのでした。

 昭和28年11月に第1巻目「開化期の人々」から始まり、最終巻第24巻「明治人漱石の死」が昭和53年5月ですから、全巻が完結するのに二十五年弱もかかっているわけです。現在は絶版となっていますが、さいわいに講談社文芸文庫から、現代人に読みやすいように、新字新かなに直して全24巻が出版されていて、おまけに別巻として『日本文壇史 総索引』も刊行されています。この総索引の巻には、総括的なものとして「物語と知識の宝庫へのアクセス―総目次・総索引から引き出されるもの―」と題して、曾根博義氏が書かれていますが、次にその一部を引用させていただきます。

「『日本文壇史』全24巻は明治三年(一八七〇)から大正五年(一九一六)までの四十六年間にわたるわが国の文壇を中心とした長大な物語であり、その特徴は、全体が時の経過に沿って編年体で記述されていること、登場人物の数が膨大であること(人名索引によれば総計五〇〇〇名を越える)、細部まで何らかの典拠によって確かめられた事実に基づいていること、などにある。登場人物の数が多いといっても、もちろん重要な人物もいれば、たった一度、名前が出るだけの端役もいる。誰が主要人物かは人名索引を眺めれば一目瞭然である。
 物語全体はある人物が終わってから次の人物の話に移るというような列伝形式で書かれてはいない。すべての人物の話がいわば年代、時間によって輪切りにされ、多数の人物の話の部分、部分がエピソードのように並列されながら全体が緩やかに進行して行くのである。したがって原則として重要な人物であればあるほと登場回数が多いということになる。」

 以上、かなり長文の引用になりましたが、本書全24巻全体の特徴を的確にまとめられています。
 具体的には、樋口夏子(一葉)ちゃんの活躍する頃などでも、ほとんど一日一日の出来事が、朝から始まって昼・夜へと、よくぞここまで調べつくしたというほど、時間単位のノンフィクションがゆっくりと進行していくのでした。
 尾崎紅葉くんが胃がんに犯され、次第に弱っていく様子など、どの部分を読んでも、直接現場に接しているような気分にさせられるのでした。
 小栗風葉くんが、師の紅葉先生に「村田漢方堂薬局のヘンチクリン先生、村田恭介氏の漢方薬を飲むと、ずいぶんと元気になって楽になりますよ」と、何度もすすめてくれたのでしたが、紅葉くんは、どうしても服用してくれないのでした。

 村田恭介くん自身は、夏ちゃんの取り巻き連中の、わけてもヘンチクリン男同士としてたいへん気があう齋藤緑雨くんはもとより、英文学三羽烏の馬場孤蝶くんや、戸川秋骨くんや、平田禿木くんなど、みんなお友達になってしまいました。
 このため、村田恭介くんは、とうとう明治時代の真っただ中から抜け出られなくなり、愚娘のお友達からは、「あなたのお父さんは明治時代の人なの?」と怪しまれているのでした。
 そして、明治は決して遠くはないのでした。村田恭介くんこそが明治なのでした。

 「樋口一葉」と名乗ったことのある樋口のなっちゃんと村田恭介くんは、誕生日が同じで3月25日生まれなのでした。だから、二人は昔から赤い糸で結ばれているのでした。それで村田恭介くんは、樋口のなっちゃんがいつまでもいつまでも恋しくてこいしくて、なっちゃんの全集類は、あらゆるものすべてを所有して、大事にだいじにしているのでした。