2001年11月発行 定価1,890円
監修者の東京大学名誉教授の多田富雄氏は、青土社から出版された『免疫の意味論』で、当事一世を風靡した免疫学の大家ですが、それ以前に「サプレッサーT細胞」の発見者として高名です。
著者の萩原清文氏は、東京大学出身の医師で、現在はアレルギーと膠原病を専門とされているそうですが、在学中に多田氏の出題した免疫学の期末試験に落ちたことから発奮され、得意のマンガを描く技術を活かして、医学部卒業の翌年、1996年には哲学書房から『マンガ免疫学 「細胞」がつくる「自己」の世界』を、多田富雄・谷口維紹両氏の監修のもとで処女出版を果たしています。
萩原氏の学生時代の学習した成果を示すこのマンガ中心の書籍は、監修者の言葉にあるように「系統的な免疫学の入門書ではない。萩原君が身をもって理解しようとしてもがいた免疫の問題点」を主体に書かれたものなのです。
これに対して、本書『好きになる免疫学』は、「免疫の仕組みを彼独特の語り口で解説している。難しいところは、お得意のマンガでわかりやすい図解を試みている。日進月歩の領域だが、しっかりとした基礎の上で分かりやすい入門書とな」っています。
免疫学は、いまや一般向け書籍として、新潟大学医学部教授・安保徹氏の一連の書籍が大いに流行しています。村田自身もほぼすべての書籍を購入して読んでいますが、氏の2001年に講談社サイエンティフィクから発売された『絵でわかる免疫』と、岩波書店から発売された『医療が病をつくる 免疫からの警鐘』の二つは大変高く評価するものの、その後の一連のものには、とりわけ「転移はガンが治るサイン」とされるに至ってからは、まったくついていけなくなってしまいました。
村田自身の免疫学の学習期間はそれほど長くはないとはいえ、平成8年に二人の子供が同時に医学部に入り、勝気な父親は彼らに負けじと、とりわけ自分らの時代とはかけ離れて進歩した免疫学分野で負けてはならじと、様々の免疫学関係書籍を渉猟するうち、なかでも白血球の自律神経支配を中心とした安保理論なら、まだ大学では教わらないだろうと、(大学卒業時に免疫学関係の研究で学内の賞をもらって、少々のぼせ上がっている)息子に対してこそ、自慢げに吹聴したものでした。
しかしながら、さきに述べた事情もあって、やはり多田富雄氏らの免疫学を基本とした「自己」と「非自己」の問題こそ、徹底的な学習が必要ではないかと、昨今、考えをあらためているところです。
もちろん勝気な父親は、二人が大学で学んだ、それぞれの免疫学の分厚い書籍も取り寄せ、しかも彼らのよりも新たに改定した最新版、南江堂の『医科免疫学』(7,000円+税)と、同じく南江堂の『免疫生物学』(7,700円+税)なども入手し、全巻通読するにはたいそう難儀なのに無理をしたものでしたが、それらは極めて詳細であるとはいえ、多田富雄氏らの流れに沿った記述が中心で、安保理論の紹介は、ほとんどみられないものでした。
今後、免疫学の教科書に安保理論がどのような扱いを受けるのか、あるいは依然としてあまり扱われないのか、大変興味津々ではありますが、まずは一般的な免疫理論を充分に学んだ後でなければ、先にあげた安保氏の二冊の書籍であっても、手を出すのは早すぎるように思われるのです。
そのまえに、しっかりとした免疫学の基本中の基本の基礎、と表現しますと大変しつっこいわけですが、これに最もふさわしい書籍の一つ、表題の『好きになる免疫学』程度のことは、徹底的に学習しておく必要があると思われます。