◆中医臨床のための「病機と治法」 陳潮祖著 神戸中医研訳編

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医歯薬出版から1991年5月刊。定価11,214円。
  
 この本は全くの中医学(中国漢方)の専門書籍ですので、一般の方にはほとんどチンプンカンプンかもしれません。

 専門家にとっても、初級向けというよりも中級向きといえるレベルです。

 じつは『村田恭介製品開発歴』の文中に出現する「中医病機治法学」が原書で、村田が出版競争に負けてしまった当の書籍です。

まだ現役で出版社にも在庫があるようで、やはり良書は、そんじょそこらの本と違って、息が長いようです。

 訳者は神戸中医学研究会という、知る人ぞ知る漢方界では著名な中医学の専門研究者集団で、この書の裏表紙に記される会員は医師を中心とした二十名が名を連ねています。

 偶然、出版社二社で同じ原書の翻訳出版計画が進行していたわけですが、多勢に無勢、蟷螂の斧とは、まさにこのことです。そんなこととはつゆ知らず、かなり完成に近づきつつあった頃に、過去に他誌(「漢方研究」誌)で関連した拙論を書いて以後、一時文通することもあった会の一人のM医師に、年賀状で出版予告をしておきましたが、これが長州人らしいセッカチな勇み足だったようです。

 やはり所詮は蟷螂の斧、多勢に無勢の結果で、まったくピエロの役回りだったというわけです。


 ともあれ、医師・薬剤師で中医学を学ばんとする場合に、基礎理論を一通り学んで以後は、本書を必ず紐解くべきで、私の「中医漢方薬学論」の基礎は、ここから出ているといっても過言ではありません。

 神戸中医学研究会のタッチした専門書籍類は、他にもたくさんあり、いずれも良書ばかりですので、中医学の専門家たらんとする者にとって、必ず購入しなければならない「必読書」ばかりといえます。

 蛇足ながら、当方の出版中止のやむなきにいたって以後、すぐに同じ出版社から、同じ著者、陳潮祖先生の『中医方剤と治法』という原書の翻訳を依頼されたのですが、半分以上を訳し終えた時点で、少陽三焦の解釈において、前著とは明らかな矛盾があることにたえられず、とうとう無断で中止してしまって今日に至り、最近その出版社の社長さんに、「あれはどうなりましたか?」と聞かれてタジタジとなったというお粗末。

 身勝手ながら、あまりにも『中医病機治法学』の理路整然とした新解釈の連続に惚れ込んでいただけに、本書が書かれる以前に出版されていたこの「中医方剤と治法」のレベルが、あまりにも低いように思われてならなかったのでした。

 わがまま者の私には、その頃に『中医臨床』誌で、四回にわたって瞿岳雲著の「中医理論弁」のピックアップ翻訳を四回にわたって連載したもののように、よほど自分自身の惚れ込んだ書物でなければ、薬局での実践的な仕事の忙しさと並行するのは、所詮無理な面もあったに違いありません。

 この「中医理論弁」は、教科書中医学の欠点を指摘・訂正・補足する臨床実践に即した説得力のある中医理論を展開した書物で、今になってあの当事、この本の全訳をこそ申し出るべきであったと悔やまれるのです。